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ライブ配信では完成形よりも途中過程がエンタメになる

インタビュー

広義におけるライバーは「ライブ配信を生業としている人」だが、その定義は実に難しい。

今回、インタビューさせていただくのはピアニストの米津真浩さん。彼なりのライブ配信との向き合い方について話を聞いてきました。

クラシック音楽のイメージを変えるために始めたライブ配信

ーーー今日はよろしくお願いします。

米津:オファーをいただけて光栄です。まさか自分のことをインタビューしていただく日が来るなんて夢にも思ってもいませんでした…!

【プロフィール紹介】ピアニスト。東京音楽大学・大学院を経てイタリアのイモラ音楽院へ留学。帰国後は演奏を中心にテレビやラジオへの出演をはじめ、講師など様々な活動を行う。現在はライブ配信プラットフォーム「17 live」でクラシック音楽の魅力を広めるために奮闘中。

ーーー(めちゃくちゃ爽やかだ!)現在はピアニストや講師を主軸に、ライブ配信でもクラシック音楽の啓蒙活動をされているということですが、いつからピアノを始められたんですか?

米津:3歳から始めました。幼稚園の先生がピアノを弾いている姿を見て「楽しそうだな」と感じ、親に習いたいと言い出したのがきっかけです。

ーーー音楽一家だったわけではなく?

米津:家庭環境はほとんど関係ないですね。シンプルに幼稚園の先生のおかげだと思います(笑)。

ーーー音楽の世界には様々なジャンルが存在していますが、なぜ“クラシック”に惹かれたのでしょう?

米津:何百年も前の音楽が時代を超えて今なお演奏され続けている歴史的背景はもちろんのこと、同じ楽譜でも演奏者によって個性が出るところが面白いと感じました。

ーーーなるほど。

米津:例えば、音楽用語には「アンダンテ」という言葉があります。意味は「歩くような速さで」なのですが、歩く速さの捉え方は人によって違いますよね?

ーーー確かに!

米津:さらにいえば、時代によっても違うはずなんです。「ベートーヴェンが生きていた時代の歩く速さはどれくらいだったのかな?」「作曲時の体調や精神面はどんな感じだったんだろう?」と想像しながら自分の中に落とし込む中で、演奏者の個性が形成されていく過程にロマンがあるな〜って。

ーーー(目がキラキラしている…)

米津:音楽用語も楽譜もアバウトなところが多い分、受け取り方も十人十色。そういう意味で、クラシック音楽は演劇と似ている部分があるかもしれません。台本はあるけど、演者次第で全体の雰囲気がガラっと変わる、みたいな。

ーーーオリジナルの音源を聴いて、そこに近づけていくのが普通なのかと思っていました。

米津:あくまで僕の場合ですが、初めて演奏する曲に関してはまず楽譜ベースで練習します。自分なりに解釈した上でオリジナルの演奏や他の演奏家の音を聞いたりする段階に移ります。バイアスがない状態で向き合うからこそ、クラシカルな曲がアップデートされるんです。

ーーー深い。。ライブ配信では基本的にピアノの演奏をしているんですか?

米津:演奏+音楽の歴史に関する豆知識なんかを話しています。例えばベートーヴェン作の有名な曲に「エリーゼのために」があるのはご存知ですよね?でも、あれはもともと「テレーゼのために」という曲名だったんですよ。

ーーーえ!??

米津:当時、出版社が間違えて曲名を記載して発表しちゃったんです(笑)。原本のタイトルが読解不能だったから想像で。今だったら考えられないですよね!

ーーーはい…。

米津:また、クラシックはもともとお城などの貴族が集まった場で演奏されることを想定したジャンルの音楽なんです。当時のエンタメの一端を担っていたわけですが、長いし退屈なイメージから寝てしまう人が続出していた。

ーーー昔もそんな感じだったんだ(笑)。

米津:だから、そろそろみんなが寝静まってきたかな〜というタイミングを見計らって「バン!」と大きい音が入っている曲が多数存在したり、作曲者の遊び心が満載なんです。

ーーー全然知りませんでした。

米津:クラシック音楽は日本だとやや敷居の高いイメージがありますよね。スーツやドレスを着て聴きに行くもの、みたいな。でも、海外だとレストランやカフェで流れていたり、野外で演奏していることも珍しくありません。

ーーークラシックの路上ライブか〜楽しそう!

米津:僕は、クラシックをサンダルや短パンでカジュアルに聴いても全然いいと思っています。どういう形であれクラシック音楽がもっと身近なものになれば嬉しいので、これまで興味があまりなかった人にも親近感を感じてもらえるようなスタンスを心がけて、クラシック音楽のハードルを下げるための活動としてライブ配信を選びました。

ーーー今の話を聞いただけでも、クラシックに対する見方はずいぶん変わりました。

米津:ありがとうございます。もう1個だけ裏話をしてもいいですか?ピアノの置き方がステージに対して正面ではなく横向きな理由ってご存知ですか?あれはですね………。

このあとも米津劇場が続きました(笑)

ライブ配信はあくまでツールのひとつ。本業はピアニスト

ーーーライブ配信を始めることに抵抗はありましたか?

米津:セルフプロデュースの方法が数多くある現代社会において、SNSやライブ配信のようなツールを利用することは必須だと感じていました。ただ、クラシック音楽業界は保守的で新しい取り組みに対して抵抗のある方が多いように感じてもいたので、どう映るかは不安でしたね。

ーーーマストだと感じられていたのは意外でした。

米津:前向きな気持ちで始めてみたものの、リスナーさんとの関わり方が難しくて悩んでいます。誰でも自由にコメントができるので、普段は話す事のない方とも気軽に話せるのが魅力である一方、距離が近いからこそトラブルになりやすくもあります。

ーーー具体的にはどのようなトラブルが?

米津:僕のライブ配信を見てくださっているリスナーさんの中には「クラシックは〇〇であるべき」という、文字通りクラシカルな考え方の持ち主もたくさんいらっしゃるので、僕の思想と相反することがあるんです。

ーーー米津さんはクラシック音楽に対するハードルを下げたいんですもんね。

米津:はい。固定観念や先入観なく純粋にクラシック音楽を楽しんでもらえたり、知識がなくても自由に発言できたり、とにかくいい意味でゆるく配信したいのですが、いろんなタイプのリスナーさんがいらっしゃるのでそうもいかず…。

ーーー理想に近づけるために工夫されていることはありますか?

米津:自分のスタンスを素直に、そして丁寧に繰り返しお伝えしています。クラシックに対する情熱や僕のことを応援してくださる気持ちが強いのは大変ありがたいことなんですが、そのせいで誰かが居づらくなったり気分を害するのは避けたいので。

ーーーライブ配信を始めてよかったことを教えてください。

米津:クラシックに触れていただく機会を少しでも増やせたことは本当によかったと感じています。「全く知らなかったけどお気に入りの曲ができた」「最近弾いていなかったピアノを再開した」などのコメントをいただけた時は、涙が出るほど嬉しかったです。

ーーーそれは嬉しいですね。

米津:我々は、作曲家が長い年月をかけて作り出した曲を演奏する立場なので、腕前次第では名曲のイメージを台無しにするリスクもあります。普段の演奏会では時間をかけて準備し、ある程度の状態まで完成させたものを提供しますが、ライブ配信ではその練習風景や過程がコンテンツとして重宝されるのはすごく新鮮でした。

ーーー「過程の共有」がエンタメになりつつあります。

米津:ただ、僕の場合はあくまでピアニストが本業なので「ピアノを弾くライバー」というイメージがつかないように線引きもしています。そこは今後もブレずにやっていきたいと考えていますが、クラシックは気難しいものじゃないことを伝えられる存在でありたいですね。

ーーーライブ配信に必要不可欠なマインドセットはありますか?

米津:つらいことやストレスに感じること、自分とは相性がよくないリスナーさんとの出会いなど、ライブ配信は楽しい事ばかりではないかもしれません。でも、それ以上に応援してくださる方の存在はかけがえのないものだし、嬉しい出来事の方が圧倒的に多いです。

ーーーふむ。

米津:だからこそマイナスな出来事があっても引きずらないマインドは大事だと思います!あと、仲間の意見も大切にしています。ライバー同士で共通の悩みを相談しあったり、1人で抱え込まないようにした方がいいですね。

ーーーどうやって仲間を増やせばいいですか?

米津:僕は他のライバーさんの配信をめちゃくちゃ見まくりました。純粋に配信を見るのが楽しいのもあるし、勉強にもなるんです。ライバー同士で繋がりたいなら、ライブ配信を見にいくのが鉄則じゃないですかね!関わってみないと自分と相性がいいかもわからないので、気軽に見にいってみるといいと思います。

コロナが落ち着いたら生の演奏を披露したいです。と言っていた米津さん。根っからのピアニスト魂を持つ反面、ゆるくてチャーミングな姿に惹かれました。

向き合い方は十人十色ですが、これからも様々なライバーさんのライブ配信との関わり方を紐解いていきたいと思いました。

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